「片付かないから、早く食べちゃってね」
母さんは背中越しに僕に言った。
僕はテーブルの上に用意されている一人分の食事の前の椅子に座り、それらを食べた。
黙々と食べた結果、10分ぐらいで食べ終わることが出来た。
「あら、早いわね〜いつもなら、ゆっくり食べるのに」
「今日は時間に余裕を持って行こうかと」
「えらい!ただ、それがいつも続くといいんだがな」
「それは・・・無理かな。じゃ、学校に行く準備してくるわ」
「ああ〜待ちなさい」
「何だよ?」
「はい、忘れ物」
母さんはそう言って、空色の布に包まれたお弁当箱を渡す。
「忘れてた」
「そうゆうところはお父さんに似てるわね」
「おいおい」
「あなたも最近、忘れ物が多いから気をつけてね。陽もよ」
「は、はい」
父さんと僕は声を合わせて言った。これも親子の証拠かな。
「よろしい。じゃ、早く準備してらっしゃい。あなたもほら、時間よ」
「おお、そうか〜」
父さんはリビングで会社へ行く準備を始める。僕は弁当を持って、リビングを出る。そして、駆け足で階段を上り、自分の部屋に行き、パジャマから学生服へ着替えた。
「ええ〜っと、今日の授業は・・・」
学生服へ着替えた後は、今日の授業の教科書ノートを肩掛け鞄の中に弁当と一緒に入れる。入れ終わったら、鞄を閉め、肩に掛けて、閉めっぱなしのカーテンを開き、自分の部屋を出た。
時間に余裕があるのだが、いつもギリギリで急いで準備しているせいか、いつもと同じようにやってしまった。
立ち止まっていても仕方ないので、ゆっくり階段は下り、玄関へもゆっくり歩いた。
玄関の下駄箱には、父さんの靴と母さんの靴で9割りを占めている。僕の靴は空いている1割だ。
僕はその1割から靴を出し、履き、さあ行こうと立ち上がった時であった。
ブチっという小さな鈍い音とともに、靴ヒモが二つに分裂した。
これはよくテレビドラマとかである、予期せぬ事態の前触れなのか。そう考えさせられた。
呆然と靴を見ている僕に対して、準備を終えた父さんが玄関へやって来て、不思議そうに言った。
「こんな所でボ〜っと何してるんだ?」
「靴のヒモが突然切れて・・・」
「そんなことか。気にするなよ〜臆病だな〜。何にも起きやしないよ」