老婆は数分間、じっとおれの顔を見ていた。
そして、短く一言、言葉を発した。
「………違うね」
違う
それを理解するのに、さほど時間は要らなかった。
「…そうだ。おれはあんた達の事は知らない。ここがどこかも知らない。名前は同じみたいだが、人違いだ」
同じ名前の奴に間違われている
今の状況は解らずとも、これだけはたしかに思えた。
しかしおれの言葉に、女は納得しないようで渋い顔をしていた。
「だったらあなた、どうしてレンのベッドで眠ってたの」
「…気付いたら…ここで寝てたんだ」
とぼけた答えだった。
しかしそれが事実な以上、他に答えれなかった。
「またビンタされたいの?」
そう言いながら、女はハアーと手に息を吹きかけている。
…それって、ビンタじゃなくて殴る時にやるんじゃないか?
しかも今どき…古い…
など、考えている場合じゃない!こいつマジだ。
「ま、まて!おれは嘘言ってるんじゃない!本気だ!本当だ!」
慌てて弁解するが、自分でもなんだかとても嘘臭く聞こえた。
「ふ〜ん…」
女の反応でおれは確信した。
…終わった