ヤス#100
ヤスは下駄を揃えると、居間に向かった。居間のドアをノックすると、ドアが開き、女将が笑顔で迎え入れてくれた。居間に入ると一斉にクラッカーが鳴った。
「やっちゃん、お誕生日、おめでとう!今日で十九歳ね!」
ヤスは自分の誕生日を忘れていた。見回せばば大将と女将の他に、娘の恭子と健さんが座っていた。
恭子は今年で二十歳になると、女将から聞いていた。美術の専門学校に通っている。女将に似て、綺麗な顔立ちだが、この5ヶ月間、口すら聞いていない。「えっ、あっ…ありがとうございます。驚きました。
「ハハハ。まぁ、座れよ。今日はお前の誕生日だと、女将から聞いてな。こっそり準備していたんだ」
「そんな…気を使って頂いて、申し訳ありません」
「やっちゃんはビールよね」
「あ、はい…」
酒は溢れる程ある。女将が作った手作りの料理が数品並べ られて小宴会が始まった。健さんはあっという間に酔っ払い、自室に戻ってしまった。大将もほろ酔い気分のようだ。「なあ、ヤス。お前、画家を目指しているらしいが、絵など描けるのか?」
「はい…お休みを頂いた時に描いていますけど」