ヤス#102
ヤスはふと、ポケットの封筒の事を思いだした。ヤスは封筒を開けてみた。現金が十万円入っていた。そして、手紙が一枚添えてあった。
「やっちゃん。お誕生日おめでとう。安いお給料では絵の具も買えないでしょう。これは、毎日頑張ってくれているお礼です。絵の具の足しにして下さい。大将も承知しているお金です。ご心配なく…弘子」
ヤスは感激した。今日の誕生会と言い、この十万円と言う大金と言い、大将と女将に頭が上がらない思いだった。もちろん香月で働く事を世話してくれた泰子にも感謝の気持ちは忘れなかった。明日は店休日だ。泰子にお礼の気持ちを込めて何か贈り物をしようと思った。
翌日、ヤスはジーンズにジャケットを羽織ると街に出た。
長い時を経て地上に出た蝉の群が狂ったように鳴いている。
デパートでブランドもののスカーフを買い、メッセージカードを添えて、宅配便で送ってもらう様にした。
福岡は九州で最大の街だけあって、繁華街は人で賑わっている。
田舎者のヤスにとって全てが真新しかった。平和だ。サトリの言う混沌の世界が本当に押し寄せてくるのだろうか。そんな気配すら感じなかった。