ヤス#103
涼を求めてカフェに入った。アイスコーヒーを頼むと、セブンスターに火を点けて深く吸い込んだ。運ばれてきたアイスコーヒーを啜っていると、後ろから声をかけられた。
「やっちゃん!やっちゃんでしょう!」
ヤスが振り返ると料亭・香月の娘、恭子が友人二人と向かいの席にいた。恭子が笑顔でヤスの下にやってきた。
「ああ…お嬢さん、こんにちは」
「お嬢さんは止してよ。一人なの?」
「はい。もちろんです」「ふふっ、良かったら向こうに来ない?友人を紹介するわ」
「あ、いえ。お邪魔でしょうから」
「もう!やっちゃん。そんなに歳は変わらないのだから、その言葉使いは止めてくれないかな!」
「はい。申し訳ありません」
「もうっ!やっちゃん、来なさいよ。ほらっ」
ヤスは半ば強制的に連れていかれた。恭子がヤスを友人に紹介した。
「ウチでイタマエさんをやっている、やっちゃんよ。さっき話していたでしょう」
「うん、うん。天才画家のイタマエさんね」
「やっちゃん。こっちは香織。山崎香織。で、こっちが多田悦子。エッチャンよ」
「どうも、ヤスです。平井康生です。宜しくお願いします」
女が三人寄れば、何かと煩い。ヤスは質問攻めに閉口した。