『兄の無念を晴らす―。』
そうは決めたもののどうすれば良いか。剣術の腕も人並み以上だった兄が斬られた相手。私も剣には多少の自信があるが―。瞬時に私の心には兄を失った悲しみよりも土方への怨嗟の念が広がった。
『紗枝、まさか敵討ちとか考えてねぇよなぁ?』
雨音だけが鳴り響く中、沈黙を破ったのは石井儀三郎。
「その、まさかだったら?」
「普段から男の恰好してても所詮は女子。女のお前に何が出来る。お前が頑張っても無駄死にするだけだ。心配しなくても辰之助さんの敵は俺達が討つ。これを機会に女子として普通に生活したらどうだ?なんなら、俺が嫁にもらって―。」
「ふざけるな!!」
私は儀三郎の言葉を遮るように言った。
「儀三郎、兄上でも敵わなかった土方をあんたに斬られるわけがない。敵は私が必ず討つ。」
「女のくせに―!」
私は思わず儀三郎の胸倉を掴んだ。
「次に私のことを女扱いしたら、儀三郎、例え貴様でも命はないと思え―。」
「紗枝さん!!」
村上伸介が止めに入った。
「儀三郎も言い過ぎです!!」
私は儀三郎の胸倉から手を離した。
「正面から行って敵わない相手なら裏をかくまでよ。私は新撰組に入る。そして、土方の寝首でもなんでもかいてやる!!」
「そんな―!!」
儀三郎と伸介は私の突拍子ない発言に呆気に取られていた。