俺は何年ぶりか…、いや手紙なんて物自体初めてかもしれないが、そんな乙女チックな物を書いている。
最近では携帯があるし、本来なら必要のない物のはずなのだが…如何んせん相手のアドレスを知らない。それどころか番号も…携帯を持っているかも。
相手は十数年前の同級生の女子の母親。
…3年前まで"彼女"という身分だった、女(ひと)の母上だ。…彼女が、事故に遭う、三年前までは…。
普通の関係なら、三回忌なんて行かないのかもしれない。だけれど、十年以上付き合い続けた仲で、婚約を間近に控えた時期だった。
俺の両親も、そいつ…美玖(みく)の両親も、勿論本人も結婚すると浮かれていた時期だった。
漸く実る、恋。
『仕事が一段落つくから、二ヶ月後に結婚しよう。今までの"恋人"から"夫婦"に、階段を一段上がれるチャンスが、やっと来たんだ』
『…はい、慶んで』
にこりと笑った、本当に嬉しそうな顔が、何よりもくっきりと、鮮明に思い出せる。
この一週間後に、美玖は死んだ。…トラックにひかれて。
手紙は何を書いたらいいだろう…。いい加減、未来を見なくてはいけないのだ。
…俺は目に涙を滲ませながら、最愛の人を思いながら、三回忌に行けない旨を書く…。