―そこには彼女の姿はなかった。
(間に合わなかった…)
息を切らした俺は、近くのベンチに腰を下ろした。
脱力…。
「はは…」
何か可笑しくなって、口から乾いた笑いが零れた。
そうだよ、今のクリスマスシーズンに、彼氏のいるさおりんが一人な訳ないし。
あれだ、そう…幻ってヤツ。
一人で淋しい俺の未練が見せた幻だ。
電車が来て、俺はトボトボと乗り込む。
入り口に立って、ぼんやりとドアの外を眺めていた。
(何をやってんだろうな。本当に俺は…)
たまにドアに写る自分の姿を見ては情けなくなった。
《まもなく楽加賀駅に到着します》
さっきと丸っきり同じアナウンスが流れる。
乗り過ごしじゃあるまいし、二度も同じアナウンスを聞く事になるとは…。
虚しい…な。
《楽加賀駅、楽加賀駅―》
手摺りに掴まり、入ってくる人の邪魔にならないようにと避ける。
「!?」
(…幻?)
そう思ったのは、そこに彼女の姿を見つけたからだ。
今度はドアが閉まる前に飛び降りる。
何でここにいるとか、そんな疑問はこの際どうでも良かった。
目の前の彼女が、俺を見ていたから―。