「さおりん…?」
目の前の彼が、確かめるように問い掛けて来た。
私は小さく頷く。
初めて聞くこうちゃんの声。高くも低くもなく、胸が鳴る。
まさか、こんな形で会う事になるとは…。
向こうもそう思ってると思う。
私は緊張や罪悪感やらで、上手く喋る事が出来なくて黙ってた。
こうちゃんも、何か考えてるんだろうか?
何も言わない。
あのまま待ってたら来てくれると思ってた。
なのに、さっきはこうちゃんから逃げるように電車に乗ったんだ。
今更、合わせる顔なんかないって思ったから―。
でも、会いたかった。
声を聞いてみたかった。
私、何てズルイんだろう?
「もう我慢すんの辞めた…」
先に口を開いたのはこうちゃんだった。
「ずっと諦めようと思ってた。でも無理な事に気付いた。さおりんに彼氏がいたって、何だって…」
こうちゃんの強い眼差し。私はドキドキして、でも苦しくて…真っすぐに見る事が出来ない。
「俺が、好きなのは…
さおりんなんだ!」
彼の息が白く消える。
ずっと欲しかった言葉、今やっと、手に入った。
泣かないって決めてたのに。無理だよ…。
私の頬をポロポロと流れ落ちた。