航宙機動部隊第三章・33

まっかつ  2007-07-21投稿
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ジョヴァンナ=バウセメロが《パレオス中央通信社》本社オフィスビルを退出したのは、もうすぐ日付が替わる頃合になってからの事だった。
貴重な時間と労力の消尽に与えられた報酬は、それに倍するだけの挫折と落胆だけだった。
正義感にも自尊心にも信頼にも展望にすらも裏切られた失意の主は、足取りも力無いままに、同業者が集住するアマンツィーノ大通りを逍遥する。
かつてはある意味下品だが、活発かつ大らかだったこの国マスコミの総本山も、今の彼女の心と同じくどこか寂れて生気無く、ついた灯りも隠し切れない空虚さを漂わす。
大暴動は容赦無くこの地も襲い、左右に林立する高層建築も、至る所硝子や壁面が割られては剥がれ落ち、弾痕すら生々しく覗かして、まるで傷だらけの巨大な墓標の様だ。
ポプラ並木の列に挟まれた四車線は、事実上の戒厳令下、一般車両の通行はストップされ、代わりにパトカーと装甲車が無遠慮にあちこちで警戒灯を点滅させ、銃を晒した武骨な制服姿が善人と悪人を等しく威圧していた。
胸から下げた記者証明が、あらゆる検問を逃れる小さな盾となってくれて、面倒に巻き込まれる心配は無かったが、そんな事が何の救いになるだろうか?
一キロ弱は歩いただろうか。
気付けば馴染みのプレタ公園の敷地に入っていた。
その外縁を巡る散歩道、小立ちに覆われた盛土を前にしたベンチ群が、いつも彼女が休息に使うお気に入りの場所だった。
蛾のたかる街灯の光を浴びながら、ジョヴァンナ=バウセメロはその一つに腰を降ろした。
目の前の木々は暗がりの中、そよ風にさざ波の音を湧きたたせながら、漆黒の姿を怪しく揺らめかしている。
その様子を眺めながら、否、端から見れば凝視すらしながら、やがて彼女はパネルカードを取り出した。
真剣な面持ちで目に映していたのは、決して人造林等ではなかったのだ。
(このままにはさせないわ…このままでは帝国に敗北するより多くの物が我が国から奪われてしまう…)
ジョヴァンナ=バウセメロは2Dホロ画面を展開して、手際良く文章を打ち込み、推敲もそこそこに送信標示をクリックした。
パレオス中央通信社に対する休職願いだった。
その末尾には、受取り側の判断で辞職扱いとしても構わない旨が附されていた。

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