負け犬と言われた男は椅子を蹴飛ばして、立ち上がった。
「本当の事を言われて腹が立ったか。醜いな。女に負けて酒に溺れて、良い笑い者だな」
フードを目深に被った男は口元を歪ませた。
「言い返せないのか。見苦しいことこの上ない」
「お前になにがわかる」
男はフードの男の喉元に掴み掛かった。
「離せ、周りが見てる。欲しくはないのか、この国と力が」
フードの男はすんなりと手を離して言った。
「ふざけたことを。この国はあの女のものだ。力もあの女には叶わない。それでどうすると言うんだ」
男はまた椅子に座り直して言った。
「あの女から奪えば良いじゃないか。必ず機会はある。ここには反抗する者もいることだしな」
フードの男は囁いた。
「……そんなこと、できるはずが……」
「本当に?」
「できる、のか?」
フードの男の言葉に男は目を見開いた。
「お前がやれればな」
フードの男は口端をやおら持ち上げて、男に囁いた。
「俺が……」
「そうだ、お前がやるんだよ。俺が教えてやる」
囁く声は甘い。男は不適な笑みを浮かべ席を立った。
「これで紅い女神も地に堕ちる」
フードの男は不適な笑みを浮かべた。