その日は朝からどんよりした曇り空であったが、夜半過ぎから急激に気温が下がって今にも雪が降るのではないかというほどの冷たさとなった。
2011年も押し迫った12月23日、フリーライターの杉村幸一が自宅近くのコンビ二の前でタクシーを降りた時はすでに深夜15時近くになっていた。
フリーライターというと聞こえは良いが、杉村の仕事と言えばいうならば、いわゆる”ジャリタレ”が出版するエッセイ集などのゴーストライターというのが実際の所で、今日も、そんなジャリタレ本出版に際しての、おこぼれ仕事にあずかる為の、事務所関係者との打ち合わせと称した「飲む」「打つ」「買う」何でもありの”接待飲み会”の帰りであった。
コンビニでウーロン茶とタバコを買った杉村は、そのままふらふらとウーロン茶を飲みながら、徒歩5分ほどの自宅に歩き始めた。
自宅までは周りに一戸建ての住宅が立ち並ぶ、バス通りのなだらかな上り坂である。
しとしと降っていた雨は気がつくと、大粒でひらひらと舞い落ちるような雪に変わっていた。
自宅までの坂道の、丁度中程にバス停が立っており、そのバス停を照らすようにぽつんと街灯が設置されている。
比較的広いバス通りなのであるが、街灯の数は少なく、時間が時間だけに夜の闇は漆黒であり、そのバス停の周りだけがぼわっと、まあるく闇夜の中に浮かび上がっているように見えた。
かなり酔いの回っていた杉村は、そのバス停まで15mほどの距離まで近ずいた時に、誰かがバス停に立っている事に気がついた。
もちろんこんな時間である。バスなど運行しているはずもないのであるが、なぜかその”誰か”はバス停で何かを待つように立っていた。