カランカランカラン・・・
久々の美容室特有のにおいが梨湖の鼻をムズムズさせ、顔をこわばらせる。
「あっ、梨湖ちゃん。いらっしゃい。」
背が高くすらっとした青年が、梨湖に向かい微笑み声をかける。
「お久しぶりです。咲麻さん。」
懐かしい笑顔のおかげで緊張も解け、梨湖の顔に笑みが戻った。
「今日はどうしようか?前と同じ?」
「えっと・・・、はい。カットとトリートメントで。」
「はい。了解。じゃあ、こっちに来てね。」
梨湖と咲麻は再会を喜ぶ、そんな会話をしながらカット台へと移動する。
「もう、一年も経ったんだね。」
咲麻は、梨湖の髪をとかしながら鏡越しにそういった。そしてこう続けた。
「早いもんだね。一年なんて。あのトキからはもう四年か・・・。」
「はい・・・。早く感じますよね。」
梨湖は少しうつむき言った。
あのトキ・・・。
梨湖の脳裏に、スライドショーのように次々とたくさんの思いが駆け巡る。
「梨湖ちゃん?」
咲麻は、うつむき黙ったままの梨湖を心配そうに見つめていた。
「すいませんっ。大丈夫です。」
はっと、我に返った梨湖は慌ててそう言った。
「無理もないよね。アイツ・・・陽の奴、まだあんな状態だし。」
ふぅっと、ため息を交えた咲麻の返事だった。
梨湖は何も言わず、ただうつむいていた。
チョキチョキとはさみの音だけが店内に響いていた。
「咲麻さーん!」
沈黙を割いたのはほかの店員の声だった。なにやらボソボソと話し、
「ごめん、梨湖ちゃん。2,30分待っててもらえるかな?」
梨湖は顔をあげうなずいた。そして咲麻は、席をはずした。
梨湖はまたうつむき、目をつむった。
また・・・、スライドショーが駆け巡る。
***続く***