今もきみの声を覚えてる。暑いあついあの夏の、ほんの少しの間。 ただじっと僕が折るヒコーキを見ていたきみ。
名前も知らなければ、どこから越してきたのかも知らない。ただアスパラみたいに白くて、馬鹿みたいにまつ毛が長い、女の子みたいな奴だった。
きみいつも公園の木陰で一人でつまらなそうにしていた。いつもなら遊びに誘っても無視するくせに、きみはなぜか俺が一人で紙ヒコーキを飛ばすときだけはとなりにいた。上手く風に乗れなくてヒコーキが落ちてしまうたびに、きみは横でにこにこしていた。
「へたくそ」 いつも無口なきみは僕にだけ笑いかける。
「なら自分で作ってみろよ」むくれて紙を放り投げると、きみは細い指で紙ヒコーキを折った。
きみが折るヒコーキはいつでもこの青い空を飛び回っていた。
それなのにきみは俺の飛ばないヒコーキを見つめていた。「お前、俺の紙ヒコーキ見てて楽しいかよ」
「うん」
「落ちるのがそんなに面白いか?」
「うぅん」
俺がいじけいると、きみは何だかとても寂しい瞳をしてまた笑った。
「紙ヒコーキ、好きなんだ」
それが理由なのかはわからない。 ただ僕は、今も紙ヒコーキを飛ばし続けている。