カタカタ
しばらくの間、浅い眠りに着いていたのだがその音で目を覚ました。
カタカタカタ
私はふいに胸を痛めた。
息苦しさと動機で気が遠くなるのを感じた。
「殺して…。」
無意識に出た言葉だったが、私は世界が自分を置き去りにし、自分の身体が一瞬の後に何者かによって壊されてしまうような恐怖を感じた。
しかしもう一度、今度ははっきりと、
「早く、殺して。」
無表情のまま私はそう呟いていた。
(此処にいる位なら、死んだ方がマシ)
声に出した途端、迷いは消えていた。最も、此処へ来てからの尋常でない現実に、私の気はとっくに狂いかけていたのだが。
カタッ
音が止んだ。
私は反射的に目を閉じた。
(来る!奴が来るっ!)
古くなって開きにくくなった木製の引き戸を開け、奴が部屋に足を踏み入れる気配を感じた。
奴が自分の元へ一歩一歩近付いて来る足音が、しんとした部屋に響く。
音が近付くにつれ、自分の鼓動が徐々に早まるのを感じた。
すぐに、奴が自分の目の前に立ったのが分かった。
私は恐怖を押し殺し、叫んだ。
「あなたは誰なの?!こんな所に私を何日も閉じ込めて、どうゆうつもり?!黙ってないで、何とか言いなさいよ!」
その刹那、私は耳を疑った。
なぜなら奴の笑い声が聞こえてきたからだ。
(きっとこの人は頭が可笑しいんだ…。)
その狂ったような笑い声を聞いて、全ての希望は閉ざされた。
(私は此処で死ぬのだ…。)
そう悟った瞬間、大粒の涙が溢れ出し、もう二度と会う事も無いだろう家族や友達の顔が浮かんできた。
今までの平凡だった17年間がどれ程幸せだったのかを身に染みて感じた。
(お母さん、お父さん、親孝行出来なくてごめんね…。)
その時だった。
奴が私の首を縄の様な物で締め付け始めたのだ。
(く、苦しい…。)
その時、奴の手によって目隠しが外された。何日もきつく視界を覆われていた為、すぐには目が馴れなかった。
!!
私は、自分の目を疑った。
目の前に立っている男は、紛れもない自分の父親だったのである。
しかし、記憶に残っている優しい父の姿はそこにはなかった。
狂ったように笑い、私の首に縄を巻き付けていた。
(お父…さん…?)
朦朧として行く意識の中で、奴の笑い声だけが耳に響いていた…。