ヤス#112
ヤスが体を乗り出して泰子のグラスにビールを注いだ。
「元気だった?お母さん。髪を切ったんだね。良く似合っているよ」
「そう?短く切り過ぎたかなと思っていたけど、変じゃない?」
「そっちの方が良く似合っているよ」
「そう?嬉しいわ。やっちゃん、随分と頑張っているみたいね。弘子さんから聞いているわよ」
「ハハ…そうですか」
「やっちゃんも飲む?」「お母さん。俺は未成年だよ」
「あら…そうだったわね。お店ではダメなのね」
「お腹は?」
「じゃあ…板さんにお刺身をお願いしようかしら」
「はいよ」
ヤスが小振りの皿に刺盛を作った。あっという間に綺麗な盛り付けが出来た。
「はい!三八秒。やっちゃん、記録の更新よ」
祥子が口を挟んできた。
「初めまして。橋本と申します。息子さんのファンです」
「あ、ほほっ…泰子です」
「何だか羨ましい親子ですねー。お互いが思いやっていると言うか…愛がアルっていうか」
ヤスと泰子は目をあわせると微笑んだ。
泰子は遠慮して、殆ど口を開かなかった。ヤスも客の手前、あえて、泰子には話しかけない。祥子が帰り、ようやくカウンターがあいた。女将がヤスに耳打ちをした。