座敷わらし?
「座敷わらし…ですか?」
弥生子は訝しげに聞き返した。由良は大きく頷くとリュックから妖怪図鑑を取り出した。
「これさ」
由良は『座敷わらし』の項を開き、弥生子に渡した。
そこには小さな可愛らしい子どもが描かれていた。古い家の中で遊んでいるようだった。
「座敷わらしは岩手県を中心とした東北地方に伝わっている子どもの妖怪でね、3歳〜11,2歳くらいの男の子か女の子の姿をしていると言われている。座敷ぼっこ、蔵ぼっことも言われていて主に家や蔵に住むと言われているんだ」
「ふ〜ん」
弥生子が半ば聞き流しながら図鑑を見つめる。
「座敷わらしがいる家は繁栄する、いなくなると没落すると云う話は遠野近辺に多い。いなくなる前兆として家の前に姿を見せるとかあるね。でね、これは意外と知られてないんだけどね…」
由良は満面の笑顔で弥生子に話しかける。弥生子は呆れつつもその話に耳を傾けた。
(本当に妖怪の話する時は楽しそうに話すわね…)
「座敷わらしには階級みたいなものがあってね、色が白く綺麗と云う『ちょうぴらこ』が上位の存在でのたばりこや臼つきわらしなどが階級が低いと言われていて上位の存在より気味が悪いらしい…それから…」
「もし…」
由良の解説がヒートアップする最中、二人の後ろから声が聞こえた。
「はい?」
由良は説明を中断して、後ろを向いた。そこにはいつの間にか奇妙な風体の男が立っていた。
「このような場所で妖の話などしない方がよろしいと思われます…」
その男はボロボロの衣服を身につけており背中に大きな荷物をしょっていた。端正な顔立ちをしておりどこか妖しい色気に包まれていた。
「あなたは?」
「なに…只の通りすがりですよ…」
男は唇を僅かに歪ませると森の中へ消えていった。