ヤス#113
「いいんですか?」
「いいわよ。久しぶりでしょう?着替えてきて一緒に飲んであげなさい」
「はい。女将さん、ありがとうございます。じゃあ、お母さん。ちょい、着替えてくるからね」
「はい。待っていますよ」
ヤスが私服に着替えて戻ってきた。タバコとライターをカウンターに置くと、椅子をまたがり泰子の横に座った。女将が新しいビールを持って来てヤスにお酌をした。
「どうぞ、ごゆっくり。ふふっ」
ヤスはこの前から女将の「ふふっ」が気になっている。
「やっちゃん。また一回り大きくなったわね。嬉しいわ」
「お母さんは変わらないね。相変わらず美人だ」
「泰子おばさんでは無くなったのね。嬉しいわ。でも、あんまり喜ばせないでね。やっちゃん、スカーフをありがとう。嬉しくて泣いちゃった」
「ささやかな気持ちだよ」
「うん。それに、メッセージが嬉しかったわ。…愛するお母さんへ…嬉しかったなぁ」
「泰治は元気?」
「ええ。毎日、頑張ってお仕事に行っているわ…やっちゃんに会いたがっているわ」
「泰治には、まだ何も?」
「ええ。平穏な日が続いているし…本当にやって来るのかしら…」
「来るよ…必ずその時がやって来る。サトリがそう言った」