ヤス#116
「お友達よ」
「それだけ?」
「クスッ…他に何の関係があると思うの?」
「うん…いや…いい」
「変なやっちゃん」
ヤスは考えるのが馬鹿らしくなった。二十分程でグランドホテルに着いた。チェックインを済ませると、部屋のキーを貰い、エレベーターに乗り込む。十階下りて、1012号室に入った。ツインの部屋からは、博多の夜景が見える。
「へぇ!綺麗だな」
「ふふっ。やっちゃんは半年も経つのに、博多の夜景が珍しいの?」
「うん。だって、殆ど店に居るからね」
「頑張っているらしいわね。私、すごく嬉しかったわ」
「お母さんのお陰だよ」
「違うわ。やっちゃんの実力よ」
「香月を紹介してくれたのはお母さんじゃないか。ありがとう」
「ところで、絵は描いているの?」
「うん。その為に出て来たんだから…ね」
ヤスが島を出て来たのは、生まれ変わってどこかにいるという母を探し出すためだが、画家になるという夢の為でもあった。
「そうよね。やっちゃんは着実に前に進んでいるわ。頑張ってね」
ヤスはその夜、風呂にもはいらずにベッドに倒れこんだ。泰子はヤスのそばに座ると短い髪をそっと撫でた。
「やっちゃん…私の命はあなたのものよ…」