中央域文明圏の戦法は、古代地球時代の農耕世界さながらに、徹底した集団戦を好む。
特に人命尊重の思想の下、その防御力に至ってはギリシアポリス群の重装歩兵密集隊形(ファランクス)になぞらえられる程の鉄壁振りを誇っていた。
よって、彼等に最低限度の指揮系統と集団管制さえあれば、統合宇宙軍側の攻撃の大半が、張り巡らされたエネルギースクリーンと弾幕によって阻まれ、正しく梨の礫なみにあしらわれ、息切れを巧みに突かれて味方の全面敗走へと陥る可能性は極めて大であった。
しかも―\r
『敵連合艦隊が戦場に集結し得る戦力は、一七000隻以上と推測されます―今の所、彼等にありったけの艦隊を投入するに躊躇うべき理由は無いのです』
そう、最も重要な数量に置いてさえ、最外縁征討軍は一・五倍を上回る優勢を確保していたのだった。
『仮にどれだけの天祐神助に恵まれても、我々のうち半数の損害は免れ無いでしょう―敵に短時間で三割のダメージを与え、八時間以内に撤退に追い込んだと、現実が許す限りの希望的観測をしてみても尚、完勝には程遠く、しかも合衆国にはまだパレオスと一万隻以上の部隊が残ります』
態勢を建て直した敵が捲土重来を期して再侵寇すれば、もう帝国に闘う余力は無い。
青史に名を残す為だけの自殺的決戦に臨むか、組織的抵抗を諦め、各要害に散ってゲリラ戦に訴えるか、遅かれ早かれどの途滅亡は避けられ無いだろう。
故に、まともな戦術では勝ち目がない―これがクレオン=パーセフォンの下した結論だった。
ここまで、諸将に異存は無いみたいだった。
左総長はいよいよ、作戦の核心部分の提案を開始した。
それは話し手に取って最も重要で、そして一番危険な内容であった。
最悪怒声や罵倒だけではなく、銃弾の嵐によって全身蜂の巣にされ兼ねない―生々しい危機感が、帝国ナンバー3の軍服をサウナスーツと化し、意図せずして、水を打つ様な雄弁さは小学生の作文朗読のぎこちなさになってしまう。
だが、幸いにして彼の少なく共生命は否定されなかったみたいだ。
ホログラムをいじくりながら一通り試案を説明し終えると、暫くその場を静寂が支配し、冷や汗はいよいよ左総長の額すら冒し始めた。
『何か質問は?』
ホログラムを消し、復活する照明を浴びながら、クレオンは提督達に是非を尋ねた。