「人間…じゃない…?
わたしが…?」
「人間じゃ……」
佳奈美は放心状態でそう呟くと、さっきまでためらっていたのが嘘の様に死体の首筋に噛み付いて血を吸い始めた。
ゴクン…
甘い…
ゴクン…
おいしい…
ゴクン…
もっと
ゴクン…
もっと…
ゴクン…
モット欲シイ…
*
『とうとう我慢が切れたか。』
勇は佳奈美が血を飲む様子を静かに見ていた。
『さてと…そろそろ出るとするか。』
勇は森から出て血を吸う佳奈美に声をかけた。
「いつまで吸ってんだ。
早く行くぞ。」
しかし佳奈美は勇を無私して血を吸い続けている。
「もう十分飲んだだろ!」
佳奈美はまだ無視している。
「おい!!
いい加減にしろ!!
人の言う事を…」
そこまで言った時に、佳奈美は立上がり勇に抱き付いた。
「佳奈美!! いきなり何すんだよ!!」
「…欲しいの…」
佳奈美は小さく呟いた。
「はっ!?」
「血を…勇を…勇の全てを…私のモノに…」
勇は感じた。
佳奈美が佳奈美で無くなっている事を。
血を求める欲望に支配されている事を。
そして摩羅と同じ喰い殺す様な殺気を。
「貴方ハ…私ノモノヨ…」
佳奈美は勇の首筋に噛み付いた。
勇は佳奈美を振りほどこうとしたが佳奈美はとんでもない怪力で勇を放さない。
視界がぼやけ始めて平行感覚が無くなって来た。
『ナンダコノ女ノ馬鹿力ハ?!
ピクリトモ動カナイ…』
勇の魂に寄生するオニの魂も必死に抵抗するが摩羅の時とは違って本当に全く動かない。
『駄目だ…本当に死んじまうよ…
こんな…事が…あるなんて…』
しかしその時、勇の嗅覚を生臭い臭いが刺激した。
勇の視界には襲いかかって来る一体のオニが見えた。
オニは腕を振り上げて鋭い爪を佳奈美の後頭部目掛けて振り下ろした。