ある日、シンはいつものように私のベッドサイドに腰掛けていた。
「オレの母さん、複雑骨折だけど、もうすぐ退院なんだ。キョウはいつまでいるの?」
「………。」
私は押し黙ってしまった。「…話たくないんだったら無理しなくていいよ。そうだ、最近、日本舞踊始めたんだ」
美しい扇を私の手に差し出した。
その輝きを見た瞬間、なぜか とても懐かしい気がした。もう、舞台の稽古をしなくなってから、どのくらいの月日が経ったのだろうか。あんなにも初舞台を踏むことを楽しみにしていたのに。。
「扇を貸してくれる?」