セミの鳴き声だけが響く林で、ダンテがミゲルに言った。
「紀元前580年頃、古代ギリシャでイソップか書いた童話に、こんなのがあるね。『 冬になり食料のなくなったセミが、食料を充分に貯蔵しているアリに、夏の間働かず歌ってばかりいたら、冬になって食物がありません。少し分けてくれませんか?と言ったら、アリが、夏の間歌っていたなら、冬には踊っていればいいだろう、と答えた。しばらくして、セミは力尽き息絶えた。』…それから2600年も経つけど、毎年夏の終わりには、セミの死骸をアリが運ぶ姿が見られるのは、永遠に続く宿命というべきなんだろうね。」
夢のように揺らめく木漏れ日を眺めながら、ミゲルが答えた。
「俺はダンテのように働き者じゃなく、未だに芸術家を目指している、まさにセミだね。しかし、俺は、2600年もの間、毎年夏になると、演奏を聴かせ続けてくれたセミが好きだ。」