平将門?
大光明は静かに真言を呟くと目の前にいる三島由紀夫の霊に微笑んだ。
「この辺りに結界をはった、儂らは誰にも見えんし声も聞こえん」
三島は総監室を見回すと溜め息のように息を吐き出した。
「相変わらず、凄まじい魔力だ。違うことと言えば女になっていることだがな…」
「別になりたくてなったワケではないわい…」
三島の呟きに大光明が食い下がる。
「まぁいい、あの日昭和45年11月25日、自分はこの帝都に霊的防衛を施す為、地霊達の穴であったこの市ヶ谷の地で果てた。そして地霊達を常世へ封じ込め、自分はその枷となった」
「偉い騒ぎじゃったが…もっと穏便にすればよいのにわざわざ立てこもったりするからじゃ」
大光明が呆れた顔で三島を見る。三島の顔は真剣そのもので、霊体とはいえ体から発する気がそれを証明していた。
「して…自分を呼び出し、何をさせる気だ?」
「話を聞くだけじゃ。儂の知り合いが不吉な予言をしての、お主に地霊達の動きを教えてほしい」
「地霊達の動き…だと…?」
三島はしばらく考えこみやがて、意を決したように喋り始めた。
「…確かに地霊達はある方角へ向かい進んでいる…恐らくは地上でも同じことがおきている」
「二・二六の兵隊達が動きおった…今のところ、狛犬の力で封印されておるが、いずれ狛犬の封印も消える…そうなると厄介じゃ…」
大光明の声が沈む。辺りはまだまだ暗く駐屯地の中は殆ど無人だった。三島は落ち着きをはらいつつ言った。
「帝都に大きな邪霊が芽生え始めている…地霊たちもそれに呼ばれているのだろう…もし、それを止められなければ…帝都は消滅してしまうだろう…」
大光明は舌打ちすると溜め息混じりに息を吐いた。
「大邪霊…とな。心当たりはあるのか…?」
「一つだけな…」
三島はそこで言葉を切り、やがて大光明をまっすぐに見つめた。
「邪霊は…平将門!」
大光明の顔が驚愕で固まった。