絞首刑

流星 空  2007-08-05投稿
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2**7年 十月十日

108歩でたどり着くと言われてる死刑台へと大石は歩き始めた。
暗くて冷たい独特の空気が大石の身体を締め付ける。
自問自答することなど既に終わっていた。無の境地でただゆっくりと歩き続ける。
80歩くらい歩いただろうか。目の前に小さな光が現れた。まるで、そこがムコウの世界への扉のように感じた。
「510番!ここで最後の祈りと遺書を書き留めなさい。」
大石は手をあわせることはなかった。
神という存在は大石にとっては無力な存在となっていた。
「まだ、死ねない」
遺書にはただ一言こう書いた。
「510番、お前の遺体は大学の研究施設に行くということでよかったな?」
看守の問い掛けにも反応なくただ前へと歩いた。
1歩1歩、死へと近づいているはずだが、大石には不思議と恐怖感はなかった。
100歩目だっただろうか、看守が布で彼の顔を覆った。
おそらく次の1歩を踏み出せば、死刑台が見えるのであろう。
「普通はこの辺で我を失うんだがな。」
看守が驚くくらいに大石は冷静だった。
彼は笑った。
現実逃避とは少し違った。
彼は悲しみ、怒り、失望、全ての感情を失ったような、
言葉では表すことのできない無の笑みだった。
彼の首に縄が掛かった。
「いよいよか」
そう思った彼の頭の中で初めて、アノ時のことが描き出された。
裁判の時も、牢獄に入っている時も、死刑を言われた時にさえも思い出さなかったアノ時のことを。



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