昭和46年12月 雪は生まれた 生まれた時刻は6時。その時、外には雪が降っていた。だから名前は雪。
ただ単純にそうつけたのではなく 純粋にそだつようにと願いをこめて。
3才になった雪。こういう事を言うと親バカかもしれないけど、とてもかわいい子。
朝一緒に散歩に行くのが日課になっていた。雪の歩幅に合わせて歩く。それでも速いのか雪は小走りで僕についてきた。
小学生に上がった雪。健康診断で問題があったと言う事で医者に見せる事になった。
パーキンソン症候群
雪はその病気にかかっていた。
筋肉が固まり徐々に動かなくなり、記憶障害を引き起こし、最後には食べ物も食べる事ができず 死んでいくらしい。
それを聞いた妻はその場に塞ぎ込んで泣き崩れていた。
僕は呆然とし、そして同じように涙を流した。
『お父さん、大丈夫?』って雪が聞く。
『あぁ…大丈夫だよ』と僕は言った。
小学三年生になった雪。
雪は毎日傷を作って帰ってきた。
『どうした?』
と僕が聞くと
『最近よくこけるの、雪ドジだね。』
とか言って笑った。
妻は泣くのをこらえていた。
小学四年生になった雪。ある日雪が『なんで家は貧乏なの?』って僕に聞いた。
僕は雪を初めて叩いた。
雪は泣きながら部屋に籠っていた。
不器用な僕は『ごめんな』って言葉を結局言えなかった。
小学五年生になった雪。
この時雪は歩けなくなった。
雪は前みたいに外にもでれなくなった。皆と遊ぶ事もなくなった。
雪が毎日寂しくないようにと妻は仕事をやめなるべく家にいるようになった。
小学六年生になった雪。
ある日雪はこんな事を言った。
『お父さんは雪が死んだら泣いてくれる?』
僕と妻は涙をぼろぼろと流し泣いた。
『ええ…』
と妻は答えた。
『雪がいなくなったらお父さんもお母さんもさびしい?』
って雪が言うから僕は『当たり前だよ…』
と言う。
雪はあまり動かせなくなった手で勉強机を指差して『開けて見て』と言った。
中には手のひらサイズの女の子の人形が入っていた。
『雪が死んだらそれを雪だと思ってね』
雪は涙を流しそう言った。
妻は『うん…大事にするね』って言ってその場に崩れた。