平将門?
竜助は居間に座りじっと幸司を見つめている。幸司は半ば呆れ顔でサングラスの奥を見据えた。彼の腕には砂羽がぴっとりと抱きついている。
「先輩…」
竜助が重々しく口を開く。
「やっぱりロリコンだったん…」
信じられないようなスピードで幸司の拳が竜助の顔面を殴り飛ばした。
「何するんですか!?」
「黙れ!そんなことを言う為にわざわざ来たのか!」
竜助は冗談ですよ…と呟きその場に居直った。ちなみに竜助は今年で二十二歳になる。明らかに幸司の方が年下だが、竜助は妖庁に入ってそんなに月日が流れていないので純粋に『先輩』と呼び慕っている。
「まぁ、とりあえず落ち着ついてください…これ、お土産です」
竜助が包みを渡す。中には雷門の人形焼きが入っていた。
「人形焼きって…俺別に好きじゃねぇんだけど…」
「砂羽ちゃんに買って来たんですよ」
見ると砂羽が目を輝かせている。幸司は包みを開けると砂羽に与えた。
「まるで欠食児童ですね。ちゃんとした物食べさせてるんですか?」
幸司は答えずに黙ったまま竜助を睨みつけていた。竜助は焦りながら言った。
「本題に入ります。再び妖庁に協力して欲しいんです」
「やだ」
幸司は間髪入れずに言い放った。
「俺はもう辞めたんだ。妖庁には近寄りたくないね」
「そんな…」
竜助の顔が焦りで曇る。砂羽もその様子に気がついたのか食べるのを止める。
「帝都の地霊達が動きました!このままでは帝都は闇に堕ちます。そうなったら日本はどうなるのですか!?」
竜助の言葉にも幸司は答えなかった。
竜助はガックリとうなだれると持っていた大きなバッグから長い棒のような物を取り出した。
「わかり…ました。もう何も言いません。でもこれだけはあなたが持っていて下さい…」
そう言うと竜助は部屋から出て行った。
幸司は竜助が置いていった物の封を外した。中から見慣れた黒い鞘が顔を出した。
「羅候…」
幸司の顔が僅かに変わった。