ヤス#121
遠方に市内の陸地がうっすらと見える。空は晴れ渡り、初秋の風が心地よい。
「空が綺麗ね」
「うん。崎戸島と同じ色だね」
「このまま、平和が続けば良いのに…」
遥かかなた。水平線の上に雨雲が湧き立っていた。西に傾き出した太陽があたりをあかね色に染め始めている。ヤスは不吉な予兆を感じた。
「何だか、雲行きが怪しくなってきたな…帰ろうか」
「はい。やっちゃん」
九州随一の繁華街、中洲。夜の中洲は酔っ払いや夜の蝶でごった返していた。ヤスは泰子と腕を組んで歓楽街の雑踏の中を歩いていた。
前から、いかにも柄の悪そうな男が歩いてきた。
ヤスは道を空けてやった。だが、後ろに回ろうとした泰子が、男と接触してしまった。
「きゃ!」
「こらぁ!どこ見て歩きよんかぁ!」
「す、すみません」
「ほぅ!綺麗なネエちゃんやな。どうすんじゃ!」
明らかにタカリだ。
ヤスが前に出た。
「すみません。謝っているじゃないですか」「なんーっ!小僧。お前は、このスケの何じゃ!」
「俺の母親です」
「はんっ!俺ァ、博竜会の者じゃ!どうすんじゃ!」
「金ですか?」
「糞ガキゃー!ユスリタカリじゃなかぞ!」「じゃあ、どうすればいいですか」