今日もまた、あの美術室へ足を運ぶ。
「出来た!?」
「……」
黙って手を動かしてる辺り、まだなんだなと勝手に解釈。
「その男の人見た事あるよーな気、するんだよね…俳優?」
私はスケッチブックに目をやった。
ピクリと反応して、目を落としたまま
「モデル」
と答える井上。
「どーりで、綺麗だと思った!でも、何でその人を描いてんの?」
「…好きだから」
(へぇぇ)
「まさかそっちの気があるとは…」
「違うわ!」
井上にしてはすかさず突っ込み。
誤解されたくなかったのか(笑)
「ジョーダンだって!ムキになんなよ〜(笑)」
井上の向い側の机に座って、足をぶらつかせる。
「じゃーさ…
私も描いてよ」
思い切って言ってみた。
井上は私を見上げるとまた視線を落とす。
(無言かよ〜)
嫌だって言われたみたいでちょっとショック。
「嘘、嘘だって!私をモデルにするなら高くつくわよ♪」
わざと気持ちを誤魔化して言うと、井上は
「バカ…」
と呟いた。
「何それ、ひっど!」
けど何か、井上が笑ってるように見えたからか、今の「バカ」は嫌じゃなかったんだな。
次の日も、また次の日も私はここを訪れる…。