航宙機動部隊第三章・42

まっかつ  2007-08-07投稿
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だからこそ、無法地帯中の無法地帯で鳴る最外縁の星民達ですら残らず仰天するのだ。
この虫一匹殺せなさそうな青年が、八三00万シルミウム人から『国賊』と呼ばれ、今もってその過激派から命を狙われ続けている事実を知ったならば―\r
今から数えて四年前、統合宇宙軍は口実と難癖と因縁を付けまくった挙句《シルミウム戦役》を発動し、機動部隊五000隻で侵寇を仕掛けた。
この時守る側の旧シルミウム星邦では、和平工作が破綻した保守政権が議会クーデターによって倒れ、愛国的な軍部独裁体制が成立し、徹底抗戦の呼び掛けの下、兵力で一0倍する帝国をかなり苦しめた。
その最中にクレオン=パーセフォンは転向を表明し、逆クーデターを敢行して主戦派から実権を奪い取った上、何とすぐさま大本営に降伏を打診。
誰も知らない内幕で星系一つを売り飛ばしてしまったのだ!

元々彼の一族自体がシルミウム有数の権門だった。
帝国と開戦した時点でクレオンは従来の中央官庁の若手中堅官僚として、極めて優秀かつ実直な人物として真面目に勤務していたのが、軍部サイドへと鞍替えし、それから三ヶ月足らずで主要メンバーの一員に仲間入りする程の信頼を勝ち取るのを待ちかねたかの様に、今度は彼等をあっさりと見捨てて降伏を前提とした臨時政府の閣僚級(首班の官房長官)に収まり、現在では最外縁最強の軍事集団のナンバー3として、昔の同胞達に銃剣をかざし、かつての敵兵達に殺し合いを命じる顕職の座に在るのだ。
そして、この大本営左総長と言う立場も、降伏条件として彼自らが提案した【買い物】だった。
そう、祖国の伝統と独立と、八000万人分の自由と尊厳を棄ててまで択んだ、それは巨大な買い物だったのだ。

だが、幾ら何でもありの最外縁とは言え、三度までも味方を裏切り、その都度昇進を重ねたのは、後にも先にも他に類例が見い出せない。
まず民主政権、次に軍部、そして最後に無条件降伏の事実すら知らされなかったシルミウム星民と、クレオンは正しく自らを育み、愛着のあった筈の故郷も組織も旧友ですら、躊躇う事なく切り捨て、必要と有らば値札を付けて売り飛ばして来たのだ。
ここまで見てみると、彼は道義心の壊死した、優しさの仮面を被った冷酷非情な権力亡者(パワーポリティカー)にしか映らないかも知れない。

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