僕の声が聞こえるまで?

さくら  2006-03-09投稿
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その日は雨が降っていた。何の根拠もないが、僕は小さい頃から雨が嫌いだった。雨の日はその日一日がどんよりした気分で人生の中の一日を無駄にしたような気分になる。だけど、優羽ちゃんと出会ってからは雨の日でさえ僕にとっては小さい頃の遠足のような気分だった。

学校が終わった僕はすぐに待ち合わせの公園に走った。バイトがない日はそれが日課になっていた。公園の真ん中で赤い傘がくるくると回っていた。優羽ちゃんは耳は聞こえないが、僕が来ると何かを感じるのかすぐにこっちを振り向くようになっていた。それは二人だけのテレパシーのようで嬉しかった。
付き合うなどの言葉はなかったが、無言の会話から二人の気持ちは近づいたような気がしていた。それでも伝えたい気持ちが上手く伝わらないもどかしさが、僕の恋心に拍車をかけていた。息切れしながら、缶コーヒーを渡した僕に向けられた優羽ちゃんの赤い唇が小さく「家に行きたい」と形を作った。
彼女が僕の部屋に来るなんて初めてだった。というより女の子が入ったことさえないのに、僕は焦りを隠しながらOKサインを指で形作った。
小さなアパートの門を入り、201号室のドアを開けた。優羽ちゃんは口元に手を当ててクスクス笑っていた。「片付けとけばよかった・・・」とつぶやきながら部屋に入った。たわいもない会話、卒業アルバムを見たり、音楽を聴いたりそんな普通のおうちデートだった。優羽ちゃんは僕のベッドに座り、僕は床に座り、まるで緊張そのものを距離で表したようだった。
僕だって正気でいられたわけではなかった。彼女の白くて細い膝が交差するたびに僕の男心をかきたてた。でも僕には彼女の手を握る事が精一杯だっだ。

彼女は僕の部屋にまた来ると言って靴を履いた。雨はまだ止んでおらず、しっとりした雰囲気を作り出していた。雨のせいだったのか、彼女自身がそうさせたのかわからなかったが、彼女はしゃがんでと手招きを僕にした後、傘で僕を覆いキスをした。それは唇とほっぺたの間だった。もう少しで彼女の唇が僕の唇に触れるか触れないかの瀬戸際だった。彼女の唇は柔らかく、彼女との恋そのもののようなくすぐったさを感じた。

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