楽しかった、幸せだった日々はあっという間に崩れた。
現実は厳しいものだ。
誰がこんな絵を買うものか。紙一面に真っ黒に塗り潰しただけにしか見えない。
誰もこの絵に詰まっている想い出を読み取る事なんて出来るはずがない。
幸せな日々を…誰も……。
絵は全く売れずに、絵かきは貧しくなり、しまいには倒れてしまった……
絵かきは微かに動く手を最期の力を振り絞り、弱々しい小さな文字だらけの手紙を書き上げた。
絵かきは、
『この手紙を…ほら、僕の故郷で待っている彼女の事を話しただろう?最期のお願い……手紙を彼女に渡して来てくれ。走って…』
彼は一気に冷たくなった。沢山の、真っ暗な絵を周りに積み重ねて…………
最期の絵かきの顔を充分に見ずに、黒猫は彼の亡骸の側にある手紙をくわえて、もの凄い勢いで走りだした。
いつの日にかに聞いた最初で最後の友達が住んでいた故郷の話を記憶の隅から必死に思い出していた。
続く