―お前の親や警察に一言でも言いつけてみろ
家族の命は無いからな!
イジメグループはここまで脅し付けて来た。
昔ならいざ知らず実際金さえ払えば殺しでも何でもやる人間や集団は幾らでもいた。
ネットで依頼すれば気に入らない人間を消せる時代だ。
ナツにはそれがハッタリには思えず、結局誰にも言えず仕舞いだった。
イジメはエスカレートし、挙げ句の果てには、誰かとセックスした画像を全国掲示板に流せ、さもなくば学校内で不良達にレイプさせる、断れば親を殺すとまでイジメグループは要求して来た。
それが彼女に決意させたのだ。
そう、自殺を。
梅城ケンヤ小学五年生だった時だ。
彼が慕い心から尊敬していたナツは、両親や祖父母、そして自分に詫びる内容の遺書を残して自室で首を吊って自殺した。
その中にはイジメに言及した箇所は全く無かった。
彼女は最後まで家族達をかばおうとしたのだ。
両親の号泣があり葬式があり、形だけの教師やクラスメート達の弔問が後に続いた。
その中にはイジメグループの面々も加わっていた。
そ知らぬ顔どころか、彼等はここでも要領良く立ち回った物だ。
教科書や上履きを隠す役目だった少女は遺影に向かって誰にも勝って大声で泣き、
『ナッちゃん、ナッちゃん!何で死んじゃったの!?何で私に一言の相談もなくいっちゃったの!?』
と、あたかも無二の親友を見事に演じ、満場の涙を誘った。
ナツを毎日ネットで脅し付けていた少年は、
『これがイジメだったら絶対許せない!やった奴は全員死刑にして欲しいですよ!』
と、葬祭場に来ていたテレビカメラの前で正義の味方顔負けに拳を振るった。
そして、イジメグループのリーダー格だった少女は、
『お父さんお母さん本当に辛いね、悲しいね…でもナッちゃんの事は忘れないから!私達の胸の中で生き続けるから!』
間もなく焼かれる棺にすがって泣き崩れる両親の手を取って、そう励ましたのだ。
恐らく内心はせせら笑いながら。
この葬儀にはケンヤも参列していた。
その時には若年期鬱病が原因だと説明された。
お姉ちゃん―ケンヤはナツをそう呼んでいた―は、色々悩みやすい年頃特有の心の病を上手く処理出来ず、自ら命を絶ったのだ。
ケンヤもこの時はそう思っていた。