君だけを(11)

じゅりあ  2007-08-11投稿
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井上は、合併症で癌も患っていたらしい。
それも悪性の…。

(何で、なにも言ってくれなかったんだよ…)

私は今、井上の葬儀に出ている。
周りは皆、涙していたけど。
まだ、実感がない。

井上が居なくなった事の―。



葬儀の後、井上のお母さんに呼び止められた。

井上がお母さん似だったんだと言う事を、本人がいなくなってから初めて知った。

「これ、あなたに貰って欲しいの」

そう言って差し出された、見慣れたスケッチブック。
「え…」

私は受け取るのを戸惑った。
すると井上のお母さんは泣き腫らした顔でやさしく微笑んだ。
「多分、尊も望んでると思うの。あなたに受け取って欲しいって」

(井上が…?)

私は頭を下げて受け取った。



やがて誰も居なくなった遺影の前でゆっくり、それを開く。

私が初めて見た、井上の完成された絵。

それをめくり、手を止めた。

「これ…」


『じゃあさ、私も描いてよ』


『バカ…』



これ…

私だ。
満面の笑みを浮かべてる。

下の方に、『裏も見ろよ』ってメモ書き見つけて、更にめくる。

そこには、

『ありがとな』

たった一言だけ綴られていた。



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