「下手くそだね…言葉が」
けどねアンタ、絵は上手いからわかるんだよ。
痛いほどに伝わってくるんだよ。
手が震える。
「井上…」
苦しかったんでしょ?
なのに私の事、描いてくれたんだ。
ちゃんと見ててくれたんだ…。
井上が私に残してくれた絵。
私はそれらを抱き締めながら…その場で泣き崩れた。
―八年後―\r
私は今、お墓の前で手を合わせている。
「今年から私、美術教師になったよ。さすがに画家は無理だったけど(笑)」
夢がなかった私も、井上に影響されて絵の勉強をしたんだ。
傍らに置いた紙袋から、“MIKOTO INOUE”と書かれたスケッチブックを取り出して触れる。
「あの頃の私、こんな顔してた?」
井上が描いた私の顔。
見たら泣きそうになるけど、アンタの前ではこの笑顔でいたい。
ねぇ、井上―\r
いつかさ、
私が天に召される時が来たら、また…
アンタの絵
私に見せてよ。
それで今度は
アンタの笑った顔が
見たい。
時間かかっても
アンタのとこに行く。
だから
それまでは…
「待ってて…!」
私は背を向け歩き出した。
スケッチブックを握り締めて―\r
END