ヤス#126
「そんな…詫びなんて…いいですよ。申し訳ありませんでしたと言って下さい。謝っていたと…」
「ハッハッハ。そんな事を言ったらアイツの血管が切れてしまうぞ。まあ、ヤスなら屁のようなものだろうがな」
「じゃあ、お咎めはないのですね」
「当たり前だよ。でも、驚いたぞ。香月の板前だったとはな。香月、なかなかの若者を手に入れたな」
「ああ。腕も良くてね。ヤス、竹内さんに刺盛を作ってくれ」
「はい、大将」
香月はご機嫌だった。
あのヤクザ者は明らかに魔物だった。だがカウンター席に座る竹内親分からは敵意を感じない。とすれば、あの舌の割れた男は敵ではないのか?
いや、竹内親分が知らないだけなのかもしれない。いずれにしても、今は真実を確かめる訳にはいかない
ヤスは包丁を握った。刺盛は直ぐにできた。アルバイトの紀ちゃんが運んでいく。
「ほう!こりゃあまた、見事だ。なかなかのドスさばきだ」