星間諸侯お得意のマインドコントロールだ。
否、愚民化政策と言った方が、より本質を突いている。
現人神たるフーバー=エンジェルミは全知にして全能・恩徳溢れその慈愛で全ての者を包まれたもう。
そして、ただひたすらそれに隷属し、崇拝し、与えられる恵み施しに歓喜し讃歌を捧げるだけの星民達。
この番組に巧妙に込められたメッセージ・もしくは集団催眠は間違いなくこれだ。
そして、番組の最後にフーバー=エンジェルミはこう宣言した。
《このオストレスタジアムの跡地に、僕の像を建てよう!巨大なやつをね。もちろんそれだけじゃないよ?様々な施設を併設する!図書館・公衆浴場・孤児院・水族館!どれも君達に寄贈してあげるよ!キャハッ、古代ローマみたいで良いだろう?僕はねえ、こう言うのが好きなんだ!僕の言う『美しい国』はねえ、みんなと一緒に楽しむ為にあるんだ。そう、みんなと一緒なんだよ?何でもあげるからね?僕は君達が大好きなんだから!》
そして、彼が手をぱんぱんと叩くと―\r
黒服にサングラス姿の男達が純銀製の盆やらトランクやらを抱えて、全員の前に置き一斉に開いた。
中には札束やら金貨やら様々な宝石やら装飾品やらが唸る程積まれていた。
そして―\r
《これは少ないが、ほんの心尽しだよ?さあ、使ってくれ!》
とても少ないとは言えない富の象徴を手ずから掴んだフーバー=エンジェルミは、そう叫びながら辺り構わず投げまくった。
正に大盤振る舞いだ。
恥も外聞も自尊心すらもかなぐり棄てて、番組のゲスト達は我先にとそれに飛び付く。
一応は全員、この星では識者・有名人・立志伝上の人物として通っている面々がだ。
更に、部外者である筈の現場スタッフから、果ては辺りにいた通行人・見物人達すらもが、この分取り合戦に乱入し、一獲千金目指して成り振り構わぬ争いを繰り広げ始めた。
誰もが誰も、刺激された欲望と興奮のままに絶叫し、罵声を放ち、掴み合い、奪い合い、路面を這いずり回る。
そして、その様子に笑い転げて悦に入る現人神。
醜悪で下品で見境無い人間の本性。
否、これすらも若き暴君の目論むシナリオなのだろう―画像を埋め尽す乱痴気騒ぎに眉をひそめながらも、リク=ウル=カルンダハラは実に冷静だった。
こうして自ら考え・判断し・理解し・解釈し・決断する力を奪われて行くのだパレオス星民は。