世界には特別なものがある。高価な宝石のついた指輪から球場の砂にいたるまで
「陽くん、いいものあげよっか。」
夕日が差し込みオレンジ色と影を濃くした教室には、窓からの光りで頬を暖かくそめた女の子が一人こっちを見て立っている。
「由紀ちゃん 日直の仕事終わった?」
「終わったよー」
僕の前にいる女の子 由紀は花瓶を置いてランドセルをあさくるとスタスタこちらに近ずいてきた、 黒板には白い文字がまだ残っている。「ハイこれ、」
さっと 胸の前に何かをつきだされた。反射的に受け取ってしまう。
「なに…… 鉛筆」
「ただの鉛筆じゃなーい!」
口を大きくして人指し指を立てている
「なんとこれは!!… 」
少し間をあけてみたらしい
「一度だけだれでも誰かに会わしてくれるのですっ!!」
楽しそうにパチパチ手をたたいている
「誰が言ったの?」
「おばあちゃん!!」
由紀はけっこう変な事を言う、僕は別に気にならない クラスの他の子はあまりそうは思はないらしいが…
「へー 誰呼ぼっかな」
「いつでも由紀を呼びなさーい」
エッヘンと胸をはっている 教室にケラケラと笑い声が響く
「仕事終わったんなら帰ろ」
「あっ、 …うん」
次の日 由紀は転校してしまった
今ではアイツがなんでこんなものをくれたのか理解できる。 ただあの頃は 日直の仕事が終わるまで待っていた自分の心も、転校する事を言わなかったアイツ気持ちも 小さかった僕にはその意味を考えられなかった。
きっとアイツはもう僕の事なんか覚えていないだろう、ましてや今でもアイツに思いをよせているわけじゃない。
だけど もし このただの鉛筆が、アイツのおばあちゃんが言う通りのものだとしたら………
この魔法の杖で あの時の願いと同じ人を 僕は呼ぶのだろう…
これは今でも僕を心の中で会わしてくれる
とても特別で大切な 鉛筆。