何で?
この事ほど大切な願い事などないはずだ。気付かないところにもっと大切な願い事があるのだろうか。
そう思った時、工事のおじさんが近づいて来て黄色いテープを外し始めた。
「何してるんですか?」
「ん?ああ、ぼうや。この工事の責任者が取りやめだと言い出してね。なんだかやってはいけないような気がしたってね。まぁ、よく分からなかったけど俺達はその人に従わなければいけないからね」
おじさんはそういうと黄色いテープを持ってどこかへ行った。
公園がなくならない。
一気に嬉しさが込み上げる。
ピクナーに会いに行かなくちゃ。
走り出す。自然と足取りが軽くなる。
「ピクナー、ピクナーっ」
ピクナーは木の枝に座って幹にもたれ掛かっていた。
「公園が助かったっ!」
『らしいな』
隆太はポケットから石を取り出した。青くなっているはず……あれ?
「おかしい」
ぽつりと呟く。ピクナーは違う方向を向いていて気がついていなかった。
「おかしい」
もう一度呟いてみる。石は紫色のままだった。ならば、工事が中止になったのはただの偶然なのか……。
その時、近くでどさっという音が聞こえた。ピクナーだった。ピクナーが枝から落ちたのだった。
「もう、ピクナー落ちたの?ドジだなぁ」
ピクナーに近寄り、しゃがみ込んだ。あれ?と思った。ピクナーは横たわったままぐったりしている。
「ピクナー、どうしたの?ピクナー?」
ピクナーは隆太の方へ顔を向けると微かに微笑んだ。よく見るとピクナーの体がどんどん透けてゆく。このまま消えてしまいそうだった。
「え?何で?ピクナー、病気?」
隆太の心臓の音が大きくなったような気がした。いつかのピクナーの言葉が脳裏に蘇る。
『人類の進歩の妨げになるような魔法を使ったら、俺は消えてしまう』
「ま、まさか……ピクナー、ピクナーっ」
ピクナーの体を抱きしめる。
「逃がすもんか、消えさせないからな。絶対消えさせないからな」
隆太の腕や指の間からピクナーが光となり飛んでゆく。天へと昇ってゆく。
「ピクナーっ、ピクナーっ!!」
手を精一杯伸ばし、ピクナーを掴もうとする。しかし隆太の指は虚しく空気を掴むだけだった。