武藤は杏飴をしゃぶりながら、境内の階段からお祭りを物思いに沈みながら、ぼんやり眺めていた。
隣にはこの土地の神様たちが賑やかに酒宴をしているいつもならそれに交ざり、愉快に飲みあうのに、今日は違った。足元のラムネのビンをふと眺め、ため息をついた。
(やっぱ引き受けるべきだったかな?)
彼は昨日行ってきた、後輩の教え子のことを思い出していた。
回想。
やっぱり寒い。
大学に到着し、管理員らしき年配の男性に案内してもらったのは、桜杯の部屋。そして眼前には笑顔全開の端正な顔立ちがもったいないほど笑みだらけの後輩が戸口で
「ささ、先輩、入ってくださいよぅ。ちゃんと片付けたし先輩の好きなハワーズのチョコもありますよ!」と入室をすすめていた。 武藤は大学の校内、やたら日当たりはいいはずの後輩の研究室の前に立って力なく笑った。
やはり彼の研究室は極寒の地だった。
今日はお盆の真ん中の今いちばん暑い夏なのに、だ。