イジメや不登校のない学校のために、一緒に頑張りましょう―\r
集会場で九重モエはそう言って手を差し出し―\r
梅城ケンヤはそれを握り返すしかなかった。
だから二人は共に改革を誓い合った同志と言う事になる。
少なくとも先方はそう考えている。
だから厄介なのだ。
厄介なのだが、今更掌を反す分けにもいかない。
それを良い事に、と言う分けでもないのだろうが、こうして九重モエはちょくちょく連絡を取っては、【善意に満ちた】お説教をたれて来るのだ。
まるでケンヤの姉気取りだ。
事実生まれでは彼女の方が少しだけ先なのだが、その事実を知ると、さらにそんな傾向に拍車がかかった様にケンヤには思えるのだ。
―やれやれ、勘弁してくれよ。
ある意味イジメグループより手強い敵に、普段冷酷ですらある辣腕会長も、正直頭を抱えたくなって来る。
仕方なく、
『ああ、多少無茶してるのは分かってるさ。俺だって人を殺すのはやっぱり辛いさ―だが、心配してくれて嬉しいよ。有難う』
自分と相手に嘘を付くしかなかった。
《それを聞いて安心したわ。本当に無理だけはしないでね?今ケンヤはこの地区を代表する改革派の主人公なんだから》
顔をほころばせた九重モエは通話を切り―梅城ケンヤはようやく苦役から解放された。
やつれ切った様子で、ケンヤは椅子に深々と座り直して、溜め息を一つした。
こう言うのは本当に疲れる。
考えたら不思議な縁だ。
本来なら全く接点のない、むしろ激しく対立するべき二人が、表際だけにしてもこうして【同盟者】となっているのだから。
相手はとっくに基盤も根拠も喪失した筈の人間の善意だの信頼だのをまともに信用し、自分はどれだけ真実であっても、それを否定し踏みにじる側にある。
いつかは、対決する時が来るのだろうか?
背もたれにありったけの体重を押し付けながら、ケンヤは目を閉じて考えた。
だが―\r
もう後戻りは出来ない。
既に計画は始まっている。
ナツやナツの家族を奪い、辱め、あざ笑った連中に、慈愛や寛容で臨む事など、俺には出来ない。
あるいはそっちの方が楽なのかも知れないが…
否。
再びケンヤは両目を開いた。
―美しい欺瞞(うそ)を選ぶ位なら、俺は醜い正義を択ぶさ。
その目には強烈な決意が宿っていた。