「ほーら!覚えてないだろ。梨湖ちゃんが小学生のときだぜ。」
言ったとおりだ、とでも言わんばかりの得意げな咲麻。
「拓斗は黙っててよ!」
愛音は、きれいな瞳で咲麻をにらんだ。
「おい、二人とも、梨湖ちゃんかなり困ってるぞ。」
先ほどまでは、皆のやりとりを穏やかに見ていた陽が、口を開く。
言葉と同時に、困ったような苦い笑顔。
梨湖は、陽のその顔で思い出した。
「あっ・・・、あのときのお兄さん?あのときの・・・。」
梨湖は途中で言葉をつむいだ。言ってはいけない。そんな気がした。
「私が小五のとき、まだ引っ越してきたばっかりで迷っていて、道を教えてもらったんでしたよね。思い出しましたよ!」
なにもなかったように、梨湖は笑顔でそう答えた。
「そう、それ!」
咲麻と愛音は声をそろえて言った。
「思い出してくれたかー。まっ、改めてよろしく!」
あの苦い笑顔は消え、穏やかな陽に戻っていた。
四人はすっかり打ち解けた様子で楽しそうに、残りの帰り道を帰っていった。
しかし梨湖は、さっき途中でつむいだ言葉のことを笑顔に隠して考えていた。