無言で教室に入り、行き場に困った俺はとりあえず自分の席に行き、何かを探すフリをして沈黙の打開策を考えた。
そんなことをしている内に楠木さんの口が開いた。
「何も聞かないの?」
「え?何のこと?」
「私、ハルが廊下から見てるの分かってたんだけど」
間違いかもしれないが、これが女の勘というものだろう。特に楠木さんの勘は痛いほど鋭いことが結構ある。
「あ、あぁなるほどね・・・・まぁ、俺があんまり深入りするような話ではないと思うし。無理強いはしない主義だし。」
「んじゃ、聞いてくれる?」
「俺なんかで良ければね。」
すると、過去を思い出すように語り始めた。
「私ね、一年の秋辺りに部活の三年生の先輩に告られたの。その先輩は面白いし、みんなから慕われていたの・・・・」
「つまり、タイプ的に深見に似た感じな訳だ。」
「うん。別に悪い人じゃなさそうだからOKしたの。で、お互い段々慣れてきて、ある日学校帰りに彼の家に行くことになったの。彼は家に着くとすぐに服を脱ぎ始めたの。」
そんな話までするのかと思いつつ、俺は期待感と不安感の狭間で戦っていた。
「突然でビックリして、どうしたの?って聞いたんだけど返事が無くて、怖くなって部屋を飛び出そうとしたんだけど、腕を捕まれてベットに連れていかれたの。私は服を脱がそうとされて泣きながら必死で抵抗していたら、ちょうど親が帰ってきて、そしたら彼も止めたの。私は飛び出して彼の親に『お邪魔しました!』とだけ言って急いで帰った。」
大きくなっていた期待感からいつの間にか憎悪感に変化していたことにきづいた。
「その後、彼から連絡あって受験とかで色々あってムシャクシャしてたらしかったんだけど、その場で結局無理に喧嘩したりして別れたんだ。」
つまり、それがトラウマとなり深見はフラれたと・・・・深見の中身外見ではなく、不運によってフラれたのか・・・・
「俺が口出しするような事じゃないけどさ、」
「分かってる!その人と深見くんが別人なのは分かるんだけど、少しトラウマ的な感じになってて・・・・理由はそれだけじゃないんだけど。」
「え?」
「何でもない!それより何で残ってるの?」
「・・・・あ゙ぁぁぁ!小テスト忘れてたぁ!先生いるかな。じゃ俺行くから!」
「頑張れー!(笑)」
楠木さんの辛い過去の一部を聞いた。自信過剰かもしれないが、俺って信頼されてる?
素人童貞の俺は今夜、色んな意味で眠れなそうだ。