横須賀線。
品川を過ぎたあたりで私は思う。
「こいつは何て贅沢な輩だ、と」
横浜から東京まで、半年12万円の通勤定期で平日のラッシュにアワーアワーする。
指定の東海道ではなく、横須賀線に乗っているのは、
ひねくれた性格のためではなく、単純に空いているからだ。
空いているとは言っても、限り無く満員電車に近い乗車率であることには相違なく、空席など出るべくもない。
そんな中にあって、幸運にも席に座している輩がいる。
しかし彼はしきりに不満そうな顔を浮かべている。
朝くらいさ。
座れた時くらいさ。
穏やかな顔をしようよ。
もしかしたら大変な悩みに苛まれているかもしれない。
私には知る術もないし、そんなつもりは毛頭ない。
だって他人だもん。
でも、朝っぱらからしかめっ面を向けられる私の身にもなってほしい。
あなたにとって私はただの他人だが、
同じ車両に乗り合わせた間柄じゃないか。
だから、座ってるのが不満なら、
その席、私に譲ってよお願い。
小さなツキに幸福を感じられる私に腰掛けてもらった方が、
座席冥利に尽きるってなもんよ。