ヤス#136
ヤスは驚いた。キースは母が愛したジャズ・ピアニストだ。ヤスは香織の横顔を見つめた。どことなく、写真で見た、母の若い頃に似ている。
一時間程で宗像の海岸線に出た。砂浜が続いている。崎戸島は海で囲まれているが、ビーチが一つも無い。ヤスには新鮮だった。
ビーチサイドにぽつんとカフェがあった。
香織はハンドルを大きく回すと、そのカフェの前に車を停めた。
「着いたわ」
「降りて、コーヒーでも飲みましょう」
三人は車を降りるとカフェに入った。壁はピクチャーウインドウになっていて、延々と続くビーチが見える。夏はサーフィンで賑わうらしいが、この時期はそういう物好きはいないようだった。
店内は閑散としている。三人はデッキに出た。寒くはないので、デッキでコーヒーを飲む事にした。
「やっちゃんの故郷もこういう所なの?」
「いいや…ビーチは無いんだ。殆ど岩場だよ。だから観光客なんか来ない」
「へぇ…一度、行ってみたいな…ねぇ、香織」
「うん。やっちゃんが育った島っていうだけで、魅力的だものね」
「そう、やっちゃんって、どういう子どもだったの?」
「ハハハ。普通だよ。でも、学校にはあんまり行かなかったな」