闇屋敷殺人事件
プロローグ
冬には結婚するというのが彼女の意見だった。
正直どうでもよかったが、なにか言わないと怒る気がしたので、頷いた。
しかし、彼女のことが嫌いなわけではない。どちらかといえば好きだった。ただ、すでに同居しているのだから、結婚なんて形だけのものなのだ。
今語っていたのは、この物語の主人公、羽田野幸助(はたのこうすけ)。彼女は、石川舞(いしかわまい)という名前で、幸助の形だけの婚約者だ。
二人は今、婚約祝賀会の会場となっている、山奥にある屋敷に向かっていた。「結婚の話なんだけどさ」 幸助がこの話をすると、舞は不安そうな顔をする。おそらくは、幸助が結婚する気がないことに気づいているだろう。もしかしたら、幸助は私のことが嫌いなんじゃ、とか思っているかもしれない。
「結婚のことは・・・」
幸助がいいかけると、舞は、
「もうすぐつくわ」とか言って話を反らした。
「屋敷についたら、話したいことがあるんだけど」
「ごめん、忙しいから」
これがいつものパターンだ。自分を限りなく愛してくれるのは嬉しいが、正直、ありがた迷惑だ。
その後は、二人とも無口になり、静かな時を過ごした。