『俺が官僚を目指すのもその為さ。官僚になって、中央省庁に入って、イジメや自殺のない学校・社会を創る―剥き出しの力や競争主義で人を淘汰するやり方を変えて、加害者も被害者も出ない平和で明るい日本にしたい―大それた望みかも知れないけど、これがね、俺の夢なんだ』
『素晴らしいわ!シンジ君!貴方ならきっと出来るわ!私も応援するから!』
村上シンジの語る【理念】に、相手の女子はまともに目を輝かせ、両手を打って賛同した。
『あ、そうそう、これから一年メンバーだけで親睦会やるんだけど、もちろんシンジ君も来るわよね!?』
『ああ、準備したら行くよ』
『本当に!?良かった!じゃあ先に行ってるね?場所はいつものカラオケ屋だから!遅れないようにね!』
そう声を弾ませながら、彼女は教室のドアまで駆け、そこで一たんこっちを向いて笑顔で大きく手を振ってから、廊下へと走り去った。
完全に恋愛モードだ。
誰もいなくなった教室に、シンジ独りだけが残り―\r
『はっ、ヤリマンが』
分厚い分厚い仮面を脱ぎ捨てて、慎重かつ大胆に本性を現した。
村上シンジは何でも出来る男だった。
卓越した頭脳―\r
抜群の計算能力―\r
そして、どんな相手も騙しおおせるだけの天才的な演技力―\r
全てを効率良く、効果的に、合理的に―これが彼の真の信条、否、信仰だった。
その点で、彼は実に完璧な信者だった。
中学時代、イジメグループに加担して、ナツを死に至らしめたのも、その【効徳】の一環だった。
表立っては口にできない効徳だ。
彼からすれば首尾一貫した話だった。
同じ進学校を目指すライバルを一人蹴落とし、自分の勝算を増やしただけだ。
ナツの成績は、いつも少しだけ自分より良く、比較的楽な推薦枠でこの国大附属高校に入るにはどうしても彼女の存在が邪魔だったのだ。
だからイジメに加担した―理由も戦略も非の打ち所の無い論理で出来ている。
ただ結果が理不尽なだけだ。
『俺が官僚になるのは、それが一番成功への近道だからさ…生徒会に入ったのも、その為のステップに過ぎない』
窓の前でふん反りかえりながら、村上シンジは本音を口にした。