―7月21日・東京都Z区西Z駅前―\r
お互いの待ち合わせ場所に指定した広場の噴水前に最初に来ていたのは、村上シンジだった。
『うへぇ、お前、相変わらず色気ねえな。大昔のド近眼ガリ勉苦学生かよ』
五分遅れでやってきた桂シュンスケが、杓子定規の学ラン姿を指差し笑いころげた。
『お前こそ―何だそのチンピラみたいな格好は?どう考えてもナンパしに来ただけじゃないのか?』
『あったりまえじゃん。それ以外に何があるんだよ?』
すると、シンジはシュンスケに顔を近付け、声をひそめた。
『いい加減にしろ―今回は【火消し】に来たんだ。遊びに来た訳じゃない―そうでなかったらお前らなんかと合う筈もないんだからな』
『えっ!?お前まだ気にしてんのあの事!?』
尋常じゃない相手の心配振りに、たちまちシュンスケは吹き出した。
『お前クスリでもやりだしたのか?しばらく見ない間に随分心配症になったなあ』
だが、村上シンジは今度は声を荒げだした。
『それはお前だろ!お前みたいのがトラブル引き起こしたら、こっちまで巻き添えくらうんだよ!お前がどうなろうが知った事じゃないが、それで俺の経歴に傷がついたらどうするつもりだ』
余りの剣幕に、シュンスケはたじろいだが、同時に呆れた。
『おいおい、何ムキになってんだよ?心配すんなって。その位分かってるさ―だが、官僚になるにはそこまで考えれないと駄目なのかねえ』
皮肉を口にしながら携帯を開いたシュンスケは―\r
『だが、あいつ遅いな―もうタクシー乗り場にいかないと、間に合わないぜ?』
『ハーイ、貴方達、元気だった?』
愚痴りながら連絡を取ろうとした相手は、すぐ後ろまで来ていた。
あか抜けた美少女だ。
そして、彼女こそが―\r
『よう、フサエ』
いまシュンスケに呼ばれたこの一条フサエこそが―\r
ナツを自殺させるように仕向けた真犯人なのだ。
『ロサンゼルスはどうだ?アイビー・リーグを目指しているんだろう?お前は?』
周囲の耳目を集めるだけの日本人離れしたヴィヴィットさにもファッションにも、村上シンジは隙のない目付きをくずさなかった。
『夢はハリウッドよ?いまは学校の他に演劇のレッスンもしてるの』
三人は連れだってタクシー乗り場へと歩き始めた。