ヤス#138
恭子と香織は嬉々としてはしゃいでいた。タバコを吸いながら歩くヤスの周りを、子犬のように走り回っていた。
潮の香りがする。だが、崎戸島の匂いとは違っていた。
同級生たちは皆、どうしているだろうか。島を離れて、それぞれの道を歩んでいるはずだ。大阪、名古屋。そして、東京。
大都市に散らばって行った友人の顔を思い出していた。皆、孤独を感じているのだろうか。
突然、背中が重くなった。恭子が飛びついてきたのだ。ヤスは動じる事なく、恭子をおんぶして歩いた。恭子が耳もとで囁いた。
「やっちゃん。大好き」
香織が側にやってきて、並んで歩いている。恭子を羨ましそうに眺めた。
「香織、おんぶしてやるよ。恭子、交代だ」
「うん。やっちゃん」
香織が恥ずかしそうに背中に抱きついてきた。乳房の柔らかい感触が伝わってくる。
恭子は水際で遊んでいる。
「香織」
「何?やっちゃん」「教えてくれないかな」
「何を?」
「うん…香織は孤独を感じた事があるか?」
「…やっちゃん」
「あるか?」
「うん…あると思うけどさ…たぶん、それは孤独と呼べる程のものじゃ無かったと思うわ」
「淋しかっただけか?」