九重モエは、雑誌を読む振りをしたまま片手で携帯を取りだし、メールを打ち始めた。
1分後、とある男子生徒の携帯が震え出す。
彼女の真後ろに横向きに並ぶ本棚から、制服姿の男が1人、やはり立ち読みの振りをしつつ、九重モエやその周りをちらちらとのぞき続けていた。
ストーカーではない。
忠実なボディガードだ。
その彼が素早く自分の携帯を開くと―\r
【霧島。今タクシーに乗り込んだ三人を見た?】
霧島はすぐさま返信を出した。
【彼等をご存知で?】
更に1分後―\r
【あれはこのZ区で最悪と言われたイジメグループよ。直接関わりはないけど、かなり有名なやつらでね―良く覚えているから間違いないわ】
霧島は事務的な表情のままそれを読み―\r
【我が校の生徒ですか?】
九重モエは前を向いたまま、更に携帯のキーを打つ。
【第三中学の卒業生よ。確かあそこは今日学園祭があるから、多分それね。悪いことがなければ良いけど…】
【第三中学ならば、梅城会長がいらっしゃいますから、心配ないと思いますが?】
確かに梅城ケンヤは名君だ。
悪い連中に好き勝手させる様な事は断固として許さないだろう―\r
―だが、
【私もそう思うけど…彼等は今、高校生だし、軽く10人は自殺させた連中よ?そんじょそこらの悪党なんかとは違うわ】
【では第三中学生徒会に通報しますか?】
霧島の提案は的確だったが、今度は中々返信が来なかった。
不思議に思って彼が会長をのぞくと、巨大なリボンを載せた頭は、確かに悩んでいる様子だった。
そして―\r
【霧島。本校に連絡して。風紀委員会に出動待機命令を。それから私達はここを出て彼等を追います】
霧島は躊躇いを示した。
【それでは第三中学生徒会の面子を潰しますよ。他校への干渉は後々面倒な事態になりかねません】
だが―\r
【これは第三中学だけの問題じゃないわ。少なくともこのZ区全体に及ぶ深刻な影響を与える可能性があると考えます―今回ばかりは梅城会長でも手に負えないかも知れません。彼には私から連絡を入れ、注意を喚起します―とにかく出ましょう】
そして程なく二人は書店を出て、一条フサエ等を追うべくタクシー乗り場に走り始めた。